自治体がデジタル化や観光の立て直しを進めようとしても、その分野に詳しい職員がいない。こういう状態が各地で起きています。同じ分野を本業にしている人は都市部の会社にいて、月に数日なら手が空く人もいます。両者をつなぐ総務省の制度が「地域活性化起業人」です。令和7年度の利用実績は、企業派遣型904人、副業型299人、シニア型12人の合計1,215人でした。過去最多です(総務省「地域活性化起業人」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/bunken_kaikaku/02gyosei08_03100070.html )。
この制度には三つの型があります。「企業派遣型」は、企業が社員を一定期間、自治体へ派遣する形で、派遣中は月の開庁日の半分以上を受け入れ先の自治体で勤務します。「副業型」は、会社に籍を置いたまま、副業として自治体の仕事に関わります。「シニア型」は、企業を退職しておおむね5年以内の方が知見を生かす枠です。会社員のまま試したいという方に関係が深いのは、真ん中の副業型になります。副業型の利用者は299人で、1,215人の内訳としては一部にとどまります。
副業型で協定を結べるのは、会社に所属している個人です。フリーランスとして独立した人は対象になりません。勤め先が三大都市圏などにあることも条件です。会社員という立場を保ったまま、地方自治体の課題に関わるための制度だからです。勤務の条件は、月4日以上かつ月20時間以上と決まっています。自治体に滞在する日数は月1日以上という基準もあります。毎週末を丸ごと空ける前提ではなく、月にまとまった数日をつくれれば動かせる規模です。たとえば、普段はメーカーで広報を担当している人が、月に数日だけ地方の自治体に入り、地元の特産品をどう伝えれば売れるかを一緒に考える。そういう形が典型です。実際の仕事は幅広く、自治体のIT化を手伝う人もいれば、観光の立て直しに関わる人、地元の産品を売れる形に整える人もいます。本業で使っている知識を、そのまま持ち込めます。
自治体の側にも、この制度を使いやすくする後押しがあります。受け入れにかかる費用の一部を、国が自治体に補うためです。国の支援の対象経費には、副業型やシニア型の人に支払う報償費なども含まれ、上限は1人あたり100万円です(旅費は別に上限100万円)。実際の金額は自治体や案件によって違いますが、無償のボランティアとは違う仕組みです。
会社員がこの制度に興味を持ったとき、次に気になるのは勤め先との関係でしょう。協定を結ぶのは企業と自治体、あるいは個人と自治体のあいだですから、まず自社の副業規定を読み直します。副業を届出制にしている会社でも、この制度では次の承諾が別に求められます。この制度では、勤め先から「副業型地域活性化起業人として活動すること」について事前に承諾を得たうえで、承諾書等を受入自治体に提出することが求められます。総務省の要綱は、勤め先との取引につながりやすい業務に起業人を就かせないよう、受け入れる自治体の側に配慮を求めています。本人の側でも、本業の取引先と自治体の仕事が重ならないかを、事前に整理しておくと安心です。
この制度は、地方に移住して働く「地域おこし協力隊」とは別の枠組みです。地域おこし協力隊は、都市部から住民票を移して赴任し、任期のあいだその土地で働く制度です。生活の拠点ごと移るので、多くの場合、いまの働き方は大きく変わります。一方、地域活性化起業人の副業型は、住む場所も勤め先も変えないまま関われる点が最大の違いです。名前が似ているために混同されがちですが、会社を辞めずに検討できるのは、こちらの制度になります。
期間の目安や対象になる企業の条件もあります。企業派遣型は、6か月から3年のあいだで派遣期間を決めます。勤め先は、三大都市圏の企業か、それ以外の地域では政令指定都市・中核市・県庁所在市にある企業などに限られます。入社して3か月未満の人や、すでに受け入れ先の自治体の区域内で勤務している人、同じ時期に別の自治体でも活動しようとする人は対象になりません(総務省 推進要綱 https://www.soumu.go.jp/main_content/001062480.pdf )。応募の前に、自分がこの条件に当てはまるかを確かめます。
副業型の299人は、全国1,700余りの自治体から見ればごくわずかです。自分の本業と重なる募集が出ていないかは、総務省のマッチングの仕組み(無料の会員登録で閲覧できます)や、各自治体の公募情報で確かめられます。地方移住や転職とは違い、副業型なら住む場所も本業も変えずに、関わり方だけを増やせます。